医事・世事をフリートーク

続 医師不足を解消しよう!

2008.01.10

-医師の絶対数を増やすしかないのか-

医師不足の解消法を述べる前に、その前提としていくつかのお話をしておきます。

まず、すべて理想どおりやろうという意識を捨てなければなりません。どこかで折り合いをつけるということを納得しなければなりません。

もちろん、どの分野の医師の役割も欠かせませんし、医師数は、少ないより多い方が良いに決まっています。しかしながら、重症患者を診なければならない救命救急や急性期医療の医師の充足を優先せざるをえません。

少しもったいぶった言いまわしになりましたが、結論を述べます。

医師不足は、医師の配置標準の変革や、医師の仕事量を減らす努力で解消できます。

それでは、具体的に解消法をあげていきます。

1.医師の事務仕事(書類・会議)を減らす

2.産業医は義務でなく、組織の裁量に任せる

3.コンタクトの診療は初診のみとする

4.老健の管理医師は嘱託の非常勤にする

5.回復期リハの専従医は担当医にし、他の診療もできるようにする

6.精神一般病床の配置標準は「48床に医師1人」に戻す

7.療養病床の配置標準は倍の「96床に医師1人」とする

8.外来患者数は医師数の算定標準から外す

これらの方策を実行すれば、マクロ面での医師不足問題は、確実に解決します。

現行の配置標準を守るために、現場ではそれほど必要と感じなくても、無理矢理医師を募集せざるをえないということが多々あります。

総病床数に対して、2割から3割の医師不足という現状では、どこかが充足するとどこかが不足し、すべての施設が充足することはありえません。

たとえば救命救急や急性期医療の現場は、医師が主となりますが、長期入院になると、患者さんの生活を支えるコメディカルが主となり、医師は従の関係になると思います。その現場にまで医師の厳しい配置標準をもうけているのは、実情に即した体制とは言えません。

解消法の一つとしてあげているように、療養病床の「48床に1人の医師」という標準を「96床に1人の医師」に変えれば、半数の医師が急性期医療の現場で働けるようになります。

もちろん、急性期医療から遠ざかっていた医師が、急に救命救急のポジションに復帰できるわけではありませんが、少しずつスライドしていけば、急性期医療に携われる医師が増えていきます。

療養病床が減り始めたことによって、私は、かえって医師不足になってしまうことも心配しています。

施設から在宅への移行が提唱されていますが、残念ながら、子どもが親の面倒をみるという文化・慣習がうすれてしまった今日、患者さんを病院や施設から家庭に帰そうという政策をこれ以上推進すると、社会的混乱を招きます。

医療・介護側からみると、在宅医療は、定期的に医師が数分往診すれば、病状のコントロールは十分でき、さらにある程度の時間、身体介護や生活援助を行えることになってますが、一方、施設は、365日24時間、患者さんの世話をしてくれています。

ほんの一部の時間を除いて、家族の多大な労力をあてにせざるをえない在宅のシステムと、365日24時間世話をしてくれている施設のシステムとを同じテーブルにのせて、採算を論じることに無理があります。

外来診療や病棟診療で手いっぱいの病院は、訪問診療を行うマンパワーはありません。

流行っているおそば屋さんが、出前に行けないのと同じです。

一軒一軒まわる訪問診療を家庭教師とするなら、施設は学校や塾に相当します。どちらが効率的かを考えれば、答えはすぐに出ます。

病床を減らして在宅に切り替えていくことは、かえって非効率で、医師の労働負担も国民の労働負担や財政負担も増加していきますし、なによりも国民が不幸になります。

やはり、医師をはじめコメディカルの配置標準を緩和して、従前のように社会的入院の人たちも施設で受け入れるべきだと思います。

稼働していない病床を削減するのはやむをえませんが、強制的に病床を削減するやり方には慎重であるべきと私は考えます。

安心して子どもを産めない社会はつら過ぎます。医師不足の本質を理解して、折々に声を出していこうではありませんか。

私たち国民一人ひとりも、医療・看護・介護に携わる人たちの良き理解者であり、協力者でありたいと思います。

(A)