医事・世事をフリートーク

続 変える勇気と変えない勇気 国民皆保険制度

2006.03.31

私は20年前に、日本の医療制度について学ぶ機会を得て、いろいろな方々からご指導をいただきました。

その折、日本の医療制度の基礎といってもいい「国民皆保険制度」の精神を学び、感動したのを覚えています。人の命は、お金も、家柄も、地域も関係なく、日本国民である限り平等であるというすばらしい制度です。

私は、国民皆保険制度は、医療制度というより、最良の福祉制度と思っています。

国際化の時代となった今日、諸外国に学ぶことはたくさんあり、良いところを取り入れることは大切ですが、日本国として、日本人として、守り続けた方が良いこともあります。このことを私たちは肝に命じなければなりません。

日本は安全で安心な国といわれてきましたが、それは、平和で治安が良かったというだけでなく、誰もが、いつでも、どこでも、最良の医療を受けられる体制が整っていることも、安全で安心な国を築いている大きな要素だと思います。

医療制度を変えるとしても、国民皆保険制度の公平・平等の精神は忘れたくありません。

今、あらゆる改革、改正が唱えられていますが、その場しのぎのご都合主義や思いつきで変えてしまうと、後々無理やひずみが生じてきます。たとえば、いったん無料にした老人医療費が、2割、3割負担になるという悲しい結果を招きます。

日本の医療費は、国が負担する部分が高いのであって、医療費総額は、先進国の中でもそれほど高くはありません。WHOは2000年発刊の「世界保健報告」の中で、保健システムの達成度(健康の達成度を示す指標)は、日本が世界第1位、アメリカは第15位と評価しています。

国家財政がきびしい現状にあるため、国の負担分の医療費を増えないようにする努力も大切ですが、混合診療によって、総医療費が増え、国民が苦しむのでは本末転倒になってしまいます。

医療制度にかぎらず、日本の将来にとって、変えた方がいいことと変えない方がいいことの選択の局面は、これからどんどん増えてくると思われます。

だからこそ、私たちは、どんなことにも興味を持ち、学習意欲を高め、しっかりとした自分の意見を確立し、常に決断できる勇気を養っておかなければなりません。

(A)